それでは ドアを 開けてみましょうか


 真新しい壁の匂い 静かに佇む空気に

今はなんの色も感じられず、無機質な空間

 バック・バーに並んだボトルはどれも未だ封を切られてはいない

 真新しいグラスは 自らが光を放っているかのように輝いている

 黒く磨き込まれたカウンターも輝きを誇示するかのようにカクテル

ライトを受けている
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 ここは とある街の オープンを明日に控えた 小さな 小さな ショット・バー




  このバーのこだわりはただ一つ




         「貴方の時間(とき)を とめてみせましょう 

                              私のバーへいらっしゃい」

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                一羽                


 一通りの仕上げも終わり 私は カウンターからホールに廻った

 カウンターのほぼ中央 まだ 誰も座っていない 椅子に 腰を下ろしてみる

 カウンターには何も置かれていない 目に映るのは 磨き込まれたカウンターに

反射するカクテル・ライト

 バック・バーに並ぶボトルにグラス

 オープンを明日に 若干の緊張と 若干の高揚と 大きな不安が入り混じっている

 自分の心臓の音が聞こえてくるような静けさ 大きく深呼吸を一回

 自分への祝杯を取りにカウンターへ戻ろうと席を立つ、と、その瞬間に 開くはずの

無い ドアが開いた

 ドアには鍵がかかっている、祝電にしろ花にしろ 開かないドアから入れるはずが無



 ノックに対応した記憶も、ドアを開けた記憶も飛んでしまうほど緊張していた訳では

ない

 まるでスローモーションのようにドアは ゆっくりと 外の光を入れてくる

 緊張が走る 

 「このビルには その類が 住んでいるのか?」

 光と共に冷たい空気が私の身体をシルクのように優しく撫でていく

 動けない!!